2010年日番谷くん誕生日計画

風邪薬

 

「くそ、これじゃあまるで浮竹じゃねぇか。」

寝返りを打ちながら独り言をつぶやく。

まさか氷雪系最強の斬魄刀の持ち主であるはずの俺が冬場で風邪をひくなんて、前代未聞だ。

しかも冷めた風呂の残り湯をかぶったからだなんて口が裂けても言えねぇ。

どうして残り湯をかぶったのかは聞かないで欲しい。思い出しただけで悲しくなるような長い長い話だ。

 

積った雪を踏む音が聞こえてくる。絶対に口には出さないが、この感覚が、この音が安らぎをもたらす。

頭をひねって時計を見ると六時。秒針が無機質に時を刻む。

朝の六時。この時間、何の用だよ、とやや苛立ちが増す。

 

「やぁ、日番谷隊長!」

超がつくほど爽やかに挨拶をして入ってきたこいつ。噂をすれば影だ。

「病人が何しに来てるんすか?」

鬱陶しそうに軽く睨むと、浮竹はわざとらしくのけぞった。

「今日の病人は君じゃないか。俺は珍しく調子がよくてね。たまには他の人の看病もいいかな、てね。」

「絶対やめたほうがいいぞ。結局自分が倒れるはめになって隊員に迷惑かけるんだろ?」

「何を言ってるんだい?今日の俺には力がみなぎってるんだよ!」

胸を張ると同時に当社比二割五分増しの笑顔をばら撒く。

なるほど、確かに調子はよさそうだ。せき込む様子もない。

だが問題は、だ。

「何で俺が風邪だって分ったんだ?」

「あれ、風邪なんだ?日番谷隊長にしては珍しいね。うんうん、一日に珍しいこと二つも見たよ。」

もしかすると、知らなかったのか?

言わなければよかったと後悔するが後の祭り。こいつなら後で大騒ぎして仕事できる状況じゃなくなるだろう。

眉をひそめる俺を見て、浮竹は待ってましたとばかりに顔を近づけた。(この時点で笑顔は当社比五割増し)

「実は今日はプレゼントを持ってきてね...」

プレゼント。過去に俺が浮竹から貰ったプレゼントの数々が頭の中を駆け抜ける。

等身大ぬいぐるみ、キャラクターの菓子詰め合わせ、抱えきれないほどの食べ物...

俺はすぐさま、布団に潜り込んだ。今できる最良の対応は無視だ。いざプレゼントを出されると、拒否するのも何だかすまない。ていうかなんでいきなり贈り物されるんだ?

「日番谷隊長、すまない!どうやらプレゼントをどこかに落してしまったらしいんだ。後でまた持ってくるからね!ああ、今年こそ誰よりも早く上げるつもりだったんだけどな。」

呟きながら、浮竹が手を大きく振り、去っていく。

「はいはい。」

俺は浮竹に背を向けた。

立ち上がり、よろめいた。頭痛も寒気もする。典型的な風邪だなこりゃ、しかもかなりひどい。

「お~い、日番谷隊長!」

自隊に戻ってるはずの浮竹の声がする。

振り向くと、すぐ近くまで来てた。

「あと、絶対に無理するなよ。何なら今日休んでもいいんだぞ。」

「なわけないだろ。お前か。」

「ハハハ、それもそうだな。ついでに卯ノ花隊長から風邪薬貰ってくるよ。」

「ああ、助かる。」

この時ばかり、俺は素直に感謝した。

風邪のひどさを自覚しないほど愚かではない。

「そんなにだるいならいっそ休みましょうよ隊長!」と松本なら言いそうだが、その松本の仕事が溜まってるから休めないんだこの野郎、と自分で突っ込む。

早く今日の分の仕事を終わらせて休むか。

そう思いながら、執務室へと向かった。多分また反対側が見えないほどに積み上がってる。だが思い返せば、それは俺が小さいから反対側が見えないのであって...結局はすべては伸びない身長が悪い。

 

仕事は思った以上に少なかった。だが大きな問題がある。

松本の失踪。

霊圧をたどる気力もなく、手を進めながらよくよく考えてみたら女性死神協会集会、という忌々しい単語が浮かび上がった。これで俺が休んだらどうなるんだよ、この隊。

 

よし、あとわずかだ。書類の厚さの減少が目に見える。俺は速度をあげる。

だがこういう時にこそ邪魔が入るものだ。

「日番谷隊長!隊長格級の緊急任務です!」

失礼します!と威勢よく声を張り上げる隊員を見ると、隊長として、いやそうな顔もできなくなった。

 

虚討伐。空座町の近くだ。

「てか、そこは十三番隊の管理区域じゃなかったのか。」

「はい、しかし浮竹隊長が倒れまして...」

「肝心な時に...今日は調子がいいって自慢してたのは誰だよ。」

「浮竹隊長は日番谷隊長だけには渡すな、と命令されましたが、可能な隊で一番近いのは十番隊でしたし、至急ですので。」

なるほど。十二、十一番隊に頼み込んでも頭を縦に振る隊はない。いや、更木らへんなら興奮して突っ走りそうだが、あいにく修繕費が追いつかない。やっかいなことに十番隊に回されました、と。

頭痛も良くなってきたし、しょうがないか。

俺は壁にかけてある氷輪丸を背負った。

 

穿界門を通った途端、ただ事ではないと分かった。瘴気のような重い気が立ちこもっている。

しかも伝令神機がすぐに狂ったかのように鳴り始める。

到着する前に虚は現れては消え、また現われて、消えた。

怪しい。これ以上になく怪しい。

数は徐々に少なくなっていったが、段々と一か所に集まるようになった。

破面(アランカル)

消えたはずだが、まだ生き残りがいたか。

 

現場につくと同時に、虚閃が飛んだ。

一瞬、体が重くなって、避けきれなかった。腕を掠める。

血液が噴き出るのがスローモーションのように見えた。

「おっと、ただの魂魄だと思ったら死神じゃないか。」

振り向くと、痩せた破面が陰湿な笑みを浮かべていた。はっきり言って、目をそむけたいほど気持ち悪い。

「破面か。」

「大正解!よく知ってるね、死神さん。いやいや、ひょっとしてその白い羽織は隊長羽織かい?死神だけじゃなくて、死神の中の隊長様じゃないか。これはこれは...隊長でもこんなに弱かったなんて...」

奴は腹を抱えて高笑いを始めた。

「ふざけんな。」

「隊長様、やる気?僕にはこれだけのシモベがいる。大勢に無勢だと思わないかい?」

破面の背後には確かに多すぎるほどの虚が集まっている。だが所詮は雑魚だ。

「だまれ。

霜天に坐せ...氷輪丸!」

だがその瞬間、俺はため込んだ病状が一気に表に出たのを実感した。

もうひとつ、思い出す。そういえば今日は俺の誕生日だ。

 

* * *

 

「...隊長!」

「どしたの、ランラン?」

「ううん、なんかうちの隊長の霊圧が突然弱まったみたいだから。」

「日番谷隊長の?今何してるんです?」

「え?ちょっと霊圧はいつもより弱かったから、多分風邪気味だけど、今日は書類仕事しかないから。」

「あ!乱菊さん、私、今日倒れた浮竹隊長の分の虚討伐、隊士に最寄にのところに持ってくようにって。」

「十二番隊と十一番隊隊は無理だろうし...それって、日番谷隊長に行ったんじゃないですか?」

「うそ、わたし、今現世に行くわ。」

 

* * *

 

雑魚は最初の一掃でほとんど消した。

あとは無理するしかない。

体力が尽きるのは自分で一番分かってる。だが奴は絶えずに挑発する。

「隊長様の実力それだけ?失望するってこういうことだよね?」

怒りと共に意識が遠のくのも感じる。視界の周りが暗くなっていく。

氷輪丸も制御できるかできないかの状態だ。自分の斬魄刀にまで「無理しすぎだぞ、主」と注意されたのがつい先頃。

「あのさ、そっちから攻撃してこないなら、僕の刀、解放しちゃうよ?」

くっそ、誰か...

無意味なのは承知していながら運に頼らざるおえなかった。

そして、一応、結果としては運に頼ってよかった。

 

火照る体と消えゆく意識を最後に聞こえたのは松本の解放だった。

「唸れ...灰猫!」

もしかすると、黒崎もいたかもしれない。強烈すぎる霊圧を感じたからだ。

 

* * *

 

目覚めると最初に見えたのが巨大な胸。

そして至近距離の黒崎の顔。松本のそばから覗き込んでる。

「隊長!何他の隊が受け付けないからって、病気になりながらも承知するんですか?!」

「なんだよ。仕方ないだろ。どこかの誰かが集会に興じてたんだから。」

「でも!そういう時は違う隊に回すんです!九番隊だって、八番隊だって、七番隊だって全部空いてたんですから!」

「...それは...」

言い返せない。

「もう隊長のことが心配だったんですよ?!そんな体で刀振り回してたら倒れるの当然じゃないですか!」

「…分かったから」

「迷惑なんです!心身共に!」

「すまない」

初めて松本を逆らう怖さを身をもって思い知った。そして大切にされてるとはっきりと、同じく身をもって思い知った・

 

「そうだぞ冬獅郎。俺がちょうど学校帰りに隣の町行ってお前のプレゼント買わなきゃ冬獅郎はぶっ倒れてたんだぞ。」

お前は口をはさむな黒崎。

そう言いたいが、口には出さない。

「プレゼント?」

かわりにこの言葉が出た。

「ああ。お前また忘れたんだろ。今日お前の誕生日なんだって。」

ほれ、これ夏梨と遊子から、と黒崎が小さな袋を差し出す。

「隊長、毎年誕生会やりながらまた忘れたんでしょ。本当に...」

誕生日。待てよ。今年は忘れてない。少なくとも黒崎と松本が言う前に思い出した。

「いや、忘れてねぇよ。」

横を向いて言ってみた。

「隊長、今なんか言いました?」

「何も。」

 

「とにかく、この様子では誕生会なんてできませんので、明日、浮竹隊長と合同でやります。それと、思いっきり派手に。」

浮竹、そういえばプレゼント持ってくるって言ってた。

風邪薬は明日貰おう。でも今回は使わなくてよさそうだ。

日番谷くん誕生日おめでとう!

って何歳なの?普通に私のおじいちゃんの年齢超えちゃってますよね?