手の平サイズのプレゼント

「ああ……そう言えば今日だったか……」



突然朽木が隊舎に顔を出すモノだから何事かと思った。
7月15日の午前10時。机に座り、筆を握っていた俺はそれを硯に置き、天井に視線を巡らせてみる。
黒崎の誕生日。そうだ、考えてみたらあいつの誕生日は7月15日。今日だ。



「朽木は、何か用意しているのか?」

「それがその……何をすればよいのかわからなくて、用意しているにはしているのですが、大したモノは……」

「確かに、プレゼント、と言ってもあいつが何を貰って喜ぶのかわからねえ」



黒崎にプレゼント、というモノがあまりしっくりこない。大体現世の男子高校生が何を欲しがるのかなんて、俺にはわかるはずもなかった。
恐らく女子ならばそれなりにわかりやすいだろう。アクセサリーやぬいぐるみは一般的だ。
ちなみに、今年の朽木に誕生日には、黒崎がウサギのぬいぐるみを購入していたのを思い出す。

しかし黒崎……あいつは何かと物欲が薄そうだから、モノより食いものの類やちょっとしたサプライズの方が喜ばれる気がする。



「浮竹隊長に相談したのですが、一護の人形はどうかと言われまして……」

「あー、あれな……あれはやめておいた方がいい。置き場所に困るし、正直気持ち悪い」



いつだったか、誕生日に浮竹から等身大の人形を貰ったのを思い出す。
恐らく技術開発局製であろう、やけにリアルな俺の人形。あれは処分するにも出来ず、今物置の中に眠っている。
ちなみに、あの人形がプレゼントされたのは俺だけではないと言うのはもっぱらの噂だ。



「日番谷隊長なら、何が嬉しいですか?」

「……俺は別に…………」



何が嬉しいか。そう問われて、初めて考えてみたが、なかなか難しいものだ。
別に物がなくとも、その気持ちだけで充分嬉しいかもしれない。いつしか松本たちと見た花火は、今でもいい思い出だ。
結局誕生日のお祝いもモノじゃなくて気持ちなんだ、なんてどこにでも転がっていそうな陳腐な考えだが、まさにそうだと思う。
懸命に祝ってくれようとする奴がいるだけでそれは幸せなことだと思うし、その気持ちは嬉しいものだ。



「何でもいいんじゃねえか? プレゼントなんてなくても、おめでとうの一言だけで大分嬉しいものだぜ」

「そ、そうですよね! 一護の場合本当に何を贈ればよいのかわからなくて……一応、このようなモノを製作してみたのですが」



朽木はそう言って、がさごそと懐を探り始める。
なんだ、ちゃんと用意してんじゃねえか。今日まですっかり忘れていた俺をとは違って、何日も前から考えていたのだろう。
そう思いながら、何が出てくるのかと朽木の手元を見守る。



「チャッピーイチゴ仕様です」

「……」



ぶらん、と目の前で揺れる、ウサギと思しきもののストラップ。
それは白いウサギが苺の帽子をかぶっているものであり、何故か背中に斬月を背負っている。
決して上手いとは言えない。言えないのだが、その発想は朽木らしい。

黙りこんでいると、相当呆れているように見えたのか、朽木は不安げな表情を見せる。



「……おかしい、ですか?」

「いや、いいと思うぜ。朽木らしくて」

「あ、ありがとうございます!!」



朽木は思い切り頭を下げ、大声で礼を言う。何も礼を言われるようなことはしていないんだが……。
朽木は嬉しそうに、ストラップを懐に戻す。そして今度は別のモノも差し出してきた。



「実は材料が余ったので作ってみたのですが、いかがですか?」

「これは……」



何とも言えなかった。ストラップということには変わらない。
しかしそれはウサギではなく苺。しかもへたの部分がオレンジ色になっており、まさに黒崎の頭だ。
案の定、その苺は黒崎を模しているらしく、目つきの悪い双眸が描かれている。
こいつの発想は面白いと思う。面白いのだが、コメントしにくかった。

可愛いという奴は可愛いと言うだろうし、気持ち悪いという奴は気持ち悪いと言うだろう。そんなデザインだ。



「と、とにかく黒崎なら誕生日に贈られたものにケチはつけねえよ。手作りなら尚更だ」

「そ、そうですよね!!」



朽木は安心したようにほほ笑む。
実際、一生懸命作ってくれたというのなら、それは俺だって嬉しいだろう。
黒崎は、人の気持ちがわからない奴じゃねえ。多分あいつにとっては何でも、最高のプレゼントになるんじゃねえかって思う。



「それじゃあ早速、渡しに行くか?」

「は、はい!」



大きくうなづいた朽木は、とても嬉しそうな笑顔を見せていた。
ひとまず俺も、仕事を中断して現世に向かおうと思う。仕事より、黒崎の誕生日の方が重大に感じる。そんな自分を意外に思う。
しかし出来ることなら、俺も何かをあいつに贈ってやりたかった。しかし今からでは何も買えねえだろうし、俺では作ることも出来ない。
それに何より、何をプレゼントすればいいのかわからねえんだ。

何をプレゼントすれば、黒崎は喜ぶのだろうか。誕生日プレゼントには何が妥当なのだろうか。
一人そんなことを考えながら、俺たちは穿界門をくぐった。



 ***



「今の時間帯、黒崎はまだ学校か……」



人の気配のない黒崎家を見上げながら、俺は呟く。
今日は平日なんだ、ということをすっかり失念していた。勿論黒崎だけではなく、妹たちも学校であり、目の前の民家は無人だ。
いつもなら特に意識しなくても感じる黒崎の霊圧がここにない。なんだかそれが空しいような、寂しいような気がして俺はため息をついた。



「学校が終わるのは何時くらいだ?」

「3時過ぎに授業が終わるので、私が通っていたころは4時前後の帰宅になりました。……まだ5時間はありますが……」



5時間。俺にとってその時間は、かなり莫大で貴重な時間だ。
5時間もあれば、あの書類の山も処理できただろう。ついでに2時間ほどは昼寝の時間を確保できる。
それを無駄にしたんだと言うことを考えると、思わずため息が漏れた。



「本人が居ねえと何も始まらねえ……だが今から戻るのも馬鹿らしいと思わねえか?」

「学校に乗り込みましょうか?」

「……多分そんなことをしたら黒崎が困るだけだ」



そう言うと、朽木も「そうですよねぇ……」と相槌を打ってくる。
只黙って、黒崎の帰りを待っているというのもなんだか馬鹿らしい。しかしこのまま帰ってしまうのも、気が引けた。
だったらどこか店でも回ってあいつの喜びそうなモノでも購入してこようか、そう考えた時だった。



「あれ、ルキアと冬獅郎? 何やってんだお前ら?」

「い、一護!? お主学校はどうしたのだ!!」



声のした方を向くと、見慣れた橙色の頭がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
グレーのスラックスに、半袖のYシャツ。ボタンが一つ、二つほど開かれたその胸元からはTシャツが覗いている。
間違いない、それは完全に学校のスタイルだ。しかし何故黒崎は、教室で黒板と向き合っているはずのこの時間帯にここに居るのだろうか。

黒崎は「あ? 学校?」と聞き返してくる。



「今日は三者面談があるから午前授業だったんだよ。明日までな」

「三者面談……とは何をするのだ」

「保護者と担任教師と生徒で面談。進路とか、成績とか学校生活について話すんだよ」



俺は昨日だったけど、オヤジの奴ひでえんだよな……とぼやきながら、カバンを肩にかけ直す黒崎。
三者面談……そんなモノが現世の学校にはあるのか。霊術院にはない制度だな。そんなことを考え、俺は無駄に感心してしまう。
しかし、黒崎の「それでお前らはどうしたんだ?」という質問に我に返った。



「あ、ああ……ちょっとな……」

「貴様の生誕を祝いにやってきてやったのだ。感謝しろ」

「偉そうに言うんじゃねえよ……」



ふんぞり返って言う朽木を、俺は思わず目を見開きながら見てしまう。
黒崎もため息をつくが、その反応に無理はねえ。俺だって偉そうに誕生日を祝われては、微妙な気分だ。
取り敢えず苦笑するだろうか。そんなことを考える。



「とにかく貴様に贈り物だ。有難く受け取れ」

「何でそんなに偉そうなんだよ、お前」



黒崎は苦笑しながら、ラッピングも施されていない、例のストラップを受け取る。
せめて袋には入れた方が良かったんじゃねえか。それを見ながら、そんなことを思う。
そして黒崎は、両手に収まった二つのストラップを見て目を瞬く。



「……なんだ、これ」

「それはおまけだ」

「おまけって……」



照れているのか、緊張しているのか、先ほどから朽木の態度がおかしいような気がする。
そしてこの二人の会話に、俺の入るスキというモノが全くねえ。俺までここに来る必要があったのだろうか。それまで、なんだか疑問に思ってきた。

俺はプレゼントも用意してねえし、この調子だときっと、おめでとうの一言も言ってやることが出来ねえ。
これじゃあ、本当に来た意味がねえじゃねえか。大体、俺は先ほどまで黒崎の誕生日など考えてもいなかった。
このまま、黙って帰ろうか、そう思った時だった。突然目の前に、赤い紙袋がつきつけられる。



「……なんだ、これ?」

「日番谷隊長の分です」

「は?」



すっぽりと手に収まるサイズの小さな紙袋。
それはリボンもなく質素だが、赤いチェックの袋が十分なラッピングを施している。
訳のわからないまま袋を開ければ、中から出てきたのは死覇装を着た人形のストラップ。

黒い袴の上に着せてある羽織の背には、俺がいつも背負っている数字と同じものが書かれていた。



「井上と一緒に作ったんです。一護の誕生日には、おそろいのストラップはどうかと思いまして」

「すげえ……これ、ルキアが作ったのかよ?」



そう、感心したように呟く黒崎の手には、橙色の頭をした人形がぶら下がっていた。
同じく、赤い紙袋の中に入っていたのだろう。逆の手には、それが握られている。
黒崎は俺の手元のストラップを見ると、ニッと口角を上げた。



「すげえ、冬獅郎かなり似てんじゃねえか。目とかそっくりだぜ」

「日番谷隊長は井上が作ったのだ。井上の裁縫の腕はかなりのものだぞ」



まるで自分の事のように誇らしげに、朽木は言う。
黒崎も「あいつこういうのは得意だよなー」と感心している様子だった。

俺の手元で、じっとこちらを見つめてくる小さな俺は、表情を変えずに只俺を凝視している。
への字に引き結ばれた口。緑色のビーズは、無機質な色を放っている。
それはなんだか、未知との遭遇だった。そして今俺の手の中にこんなものがあることが、ふしぎで仕方がない。



「でもさ、自分のぬいぐるみ持ってるのって恥ずかしいだろ。なあ冬獅郎?」

「あ?」



黒崎はそう言うと、俺の手からストラップを奪い、自分の持っていたオレンジ頭のストラップを乗せる。
呆然とそれをたどる俺を見返すその笑顔の目の前で、仏頂面の俺が揺れる。



「どっちかというと俺、こっちがいいな。いいかルキア?」

「ああ、どちらを持っていても構わぬ」



朽木が頷いたのを見て、黒崎はポケットから携帯電話を取り出す。
予めついていたストラップを外すと、朽木の手にそれを置き、手元のストラップを金具部分に通した。



「お、冬獅郎ついた。どうだ冬獅郎、よくねえか、これ?」

「お前、そんなモン携帯につけて邪魔じゃねえのか?」

「いいじゃねえかよ。冬獅郎も伝令神機につければいいじゃねえか。お揃いで作ってくれたんだろ、ルキアも井上も」



携帯電話にストラップをつけてはしゃいでいるなんて、こいつは女だろうかなんて考える。
しかしその反応に、朽木は満足しているようで、嬉しそうに黒崎を見ていた。
恐らくこいつがどんな反応をするか、喜んでくれるだろうか。そう考えて、一生懸命作ったのだろう。
よく見れば、朽木の指には絆創膏が貼られている。きっと、何度も失敗を重ねたのだろう。
それだけに、喜んでもらえると贈った方も嬉しくなる。



「とにかく、ありがとなルキア。大切にするぜ」

「日番谷隊長だからな。無くした時の重みは倍だぞ?」

「ばーか、落とさねえよ。なあ冬獅郎」

「お前、何でそんなにはしゃいでんだよ」



思わず漏れたのは、呆れのため息。そして思う、俺はすっかり蚊帳の外だ。
黒崎に対しておめでとうの一言も言ってやれていない。プレゼントすらねえ。しかも俺までプレゼントを貰うって、なんなんだこれは?

しかし、悪い気はしなかった。こう言うのも、たまにはいい気がする。
今回は、朽木が一枚も二枚も上手だったということだ。井上と二人で、何日も前から計画していたのだろうと思う。

そしてこいつの誕生日を知らなかった俺が悪い。



「正直俺は、お前の誕生日なんて気にしてなかったんだけどな」

「へ?」

「今日も、ついさっき朽木に言われて気がついたんだ。薄情なモノだろ?」



去年、黒崎はちゃんと俺の誕生日を企画し、祝ってくれたと言うのに。
それにちゃんとしたモノも返せねえなんて、我ながら最低だ。



「来年はこれよりすごいことしてやるから覚悟しておけ」



そう言うと、黒崎はきょとんとして俺を見る。
しかしすぐにそれはすぐに笑顔へと変わった。



「その前に冬獅郎の誕生日もあるし、ルキアだってあるだろ? 上がねえほどすごい祝い方してやるから楽しみにしておけよ!」



黒崎の手元で、手作りのストラップが揺れた。





ちなみに、例の朽木お手製のイチゴセットに関する黒崎の感想はこれだ。



「なんかこれ……夢に出てきそう」

「そうか、夢に出てくるほど感動したか!」

「いや、夢に出てきそうなほど気持ちワリイ」

「なんだと貴様!!」



そのやり取りを聞きながら、俺は取り敢えず苦笑していた。

 

黒崎くん、誕生日おめでとう!

黒崎くんの生誕記念に夜聖さまからいただいたフリーの作品です。

夜聖さま、ありがとうございます!