西暦三〇〇〇年、世界の人口は百五十億人を突破する。

人類は外界への移住を試みた。一年後、失敗したことが確認させる。しかし報道はされなかった。そして残酷にも、再び外界へと人を送り続けた。

すべては、人口減少のため

 

風化

淡く、儚い夢から醒めた時、風化はもう、始まっている。

 

* * * 初めての夕焼け * * *

「おい渉、お前、どこに分けられたんだよ?」

「ああ?NASAだって。何回言わせるつもり?」

「あ、そうだっけか?ごめん、俺馬鹿だし。」

自分で認めるか。」

渉が俺を見て、あきらめたように大きく溜め息をつく。どうせ俺は馬鹿だし、ブサイクだし、渉もそれを前から知っている。やっぱりからかってんだな、こいつ。

「お前の姉さん、まだ便り来てないんだってな。」

黙り込んだ俺に、見当違いな心配をした渉が俺の顔を至近距離でのぞき込んで来る。

「姉ちゃんの奴、絶対に第五彗星で楽して、俺のことなんて忘れちまってんだよ。」

俺が「チェッ」と石でも蹴りそうな声で言う。

「そうか。」

やっぱり渉(こいつ)は俺の幼なじみだ。そりゃあ、昔からそうだが、改めて認識した。

ちなみに俺の姉ちゃんは俺とは正反対の天才で、外界移住計画にいち早く登録された候補者だ。そして去年の秋、選ばれて第七十八行星雲の第五彗星に旅立った。それで、それから一切情報なしで、今に至るわけだ。

「大体だな、俺、あいつのことなんかどうでもいいし。」

うん、どうでもいいはずだったんだ。でも、俺の心は「本当はどうでもいいわけがないだろ!」と常々訴えてくる。

「でも僕には分かるって。どうせそう言いながら実は物すごく心配してるんだろ。」

「うっせぇな、心配なんかしてねぇって言ってんだろうが!」

即答。心配なんかしてない。ただ、なんか忘れるのもいけないような気がして、放っとけなくて、まとめて言うと、気にかけてるだけだ。

しかも渉の奴、何なんでも知ってます的なオーラ漂わせてるんだ。一応正論だし、図星だけど。

「ふうん。」

あいまいで、意味ありげな返事をして渉が空を見上げた。まるで何かを探し求めているような目線だ。別に、見てもきれいな空じゃないのに。

遠い昔、空は「澄み切った」とか、「輝く」、「きれいな」、とかの言葉で表現されていたそうだけど、今似合うのは「どんより」や「薄暗い」、「恐ろしい」などだ。正に「日が昇らない」状態だ。変わらない形容詞は一つ。「雄大な」だ。今の空は色々な意味で雄大だ。昔の青い空に白い雲の雄大さだなんて俺には想像できないがな。後、変わらない事実も一つある。空は常に俺達の上にある、ということだ。まぁ、空が足元にきたらもう空とも言わないけど。

「それよりさ、渉。」

わざと考え事をしてる渉を中断する。空を見上げる時は考え事だって事くらい、俺にも分かる。俺だって伊達に幼なじみやってきたわけじゃない。

NASAとかさ、古くね?千年以上の歴史があるぜ。」

渉の背中をバンバンたたく。身体が百年くらい経ったミイラみたいに弱い渉は激しく咳き込んだ。

「お前、僕をサンドバッグだと勘違いしてないか?」

恨めしそうな目で睨んでくる渉。そして勝手にぺらぺらとしゃべり始めた。

「ともかく、NASAは古くなんかない。歴史背景が濃厚で、由緒正しき、と言って欲しいね。」

あっそうでしたね。

「それに、NASAは例え古くとも機材や研究題材は最先端だ。」

「うん、でも渉って頭いいからNASAでもちゃんとやってけるよ。」

「そうだといいけどな。」

その時、普段なら気付かないのに、一瞬、夕日が現れたような気がした。ああ、これが歴史で習った時に載ってた古い写真の夕日なんだって、その時分かった。

 

 

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