Like the Butterflies

あたし達の出会いは舞い降りる蝶の様にどこからもなくきた。



「日番谷くん!遊びに来たよ!」
「あら、雛森。ちょうどいいわ。一緒にお酒飲みましょうよ!」
「乱菊さん、あたし、酒に弱いので...」
さりげなく断る。確かに、お酒には弱い。一杯でどろんどろんに潰れる。乱菊さんはまさにその効果を狙っているようで、断ったあたしを絶望的に見つめる。
「ええ~」
「「ええ~」じゃねえだろ。それにちょうどよくもない。お前、レポート書き上げてないだろ。」
さっきまでだまってた日番谷くんが発言した。

「それは、また後で。折角雛森が来てるんだから、楽しみましょうよ!」
「雛森はいつも来てるし、楽しんだところでお前は仕事をやったことがない。」
氷以上に冷たい一言。

「あのレポート来週までですよ。今はいいじゃないすか。」
「なら違うのが残っているだろう。」
そして日番谷くんは乱菊さんの机を横目で見た。
そこには、おそらく乱菊さんがすわったら人が完全に見えないほどの書類の山々があった。
確かに日番谷くんの言うことには理がある。

「そういえば、今日何日でしたっけ?」
「3月31日だ。」
「だったら、あたしは仕事を片付けることにします。」
「どういう風の吹き回しだ?松本が自ら仕事をするなんて。お前、熱でもあるのか?」
(あたしのイメージって、仕事をしない人だったんだね)
乱菊さんはそう思ったに違いない。

「熱なんてないです。バカな分、風邪は引きませんから!」
喜んで自分をバカだと呼ぶ乱菊さんをあたしは何か悲しく思えた。

「理由があるだろう。」
「ないです!隊長は雛森と遊びに行ってきて下さい!」
首を横にぶんぶん振る乱菊さん。

「いいの?!」
あたしは驚いてきく。
「もちろんですよ!」
「ちゃんと仕事しろよな。」
「分かってますって。」

色々と心配しながらあたし達は外に出た。
一面に桜が咲き誇る季節だ。
そう、あたし達が会った時もこの様に。

「本当に松本を一人にしてよかったのかな?」
「大丈夫だよ。今日はまじめに仕事やりそうなふいんきだったから。」
「そうか?」
「乱菊さんをそんなに信頼してないの?」
そんな会話が飛び向かう。あたし達はのんびりと歩いていた。


* * *

一方、執務室に一人残った乱菊さんは、
「さあて、始めましょうか!」
と張り切って、ちゃんと仕事をしたのでした。

これほど手際よく、そして嬉しそうに仕事をする乱菊さんを見たことのある人はあそらく誰もいない。

(特別な日だって雛森から聞いたから、今日ぐらいはちゃんと仕事をしないとね。)

* * *


その頃、あたし達は桜の花の道を通っていた。無言で。

「今日で百年目だな。」
突然ぼそりとつぶやいた日番谷くんをあたしは目を丸くした。
「何が?」
「覚えてないのか。その、お、俺達が...」
「もちろん覚えてるよ!あたしの記憶力は並みじゃないわよ。」
あたしはただ日番谷くんが突然そう言ったことに驚いてただけ。
「だったら、忘れるふりするなよな。」
そして、日番谷くんは普段見せない子供っぽい笑顔をみせた。
二人きりの時、日番谷くんは誰にも見せない子供の様なしぐさをみせ、素直になれるのだ。

またのんびりと歩きだした。
ふと、気がついた。
日番谷くんの背、高くなってる。
もともと、あたしとの差が頭一つ分以上だったのに、今はあたしより、ちょっとちっちゃいくらいだ。それに、あたし自身も背が伸びたから、日番谷くんはすごい成長したのだろう。

「背、伸びたんだね、シロちゃん。」
「だからシロちゃんはやめろよ。」
怒るな顔をするが、それは乱菊さんを怒る時とはまた違う、やさしい顔だった。 

「流魂街にもこういう道あったね。」
「ああ」
「シロちゃん、泣いてたもんね。」
かまわず、あたしは‘シロちゃん’と呼び続ける。
「うっ」
「そしたら、あたしが来たんだけど、逃げたよね。」
からかうようにあたしが言った。そして、核心に近づく。
「だからな、その時は、」
「またやってみない?鬼ごっこ。」
「は?」
日番谷くんは驚きの表情をみせた。

「そうだな。」
以外とすぐにOKしてくれた。
「あたしが追いかけるからね!」
言い終わった時、日番谷くんはもう消えていた。

「行くの速いって。」
そう言いながらもあたしは瞬歩で消えた。

もちろん、本気ではない。日番谷くんも本気ではないだろう。
隊長二人が本気で追いかけっこしたら、ほかの人達に多大な迷惑をかけることになる。
(あたしは三年前、隊長に格進した。そういえば、乱菊さんはいつしかあたしに敬語で話す様になった。)

走りながら、あたしは、百年前の今日を思い出した。


* * * * * *

あたしもその時此処に来たばかりだった。
幸い、来てすぐに、おばあちゃんに拾われた。
生活が楽とはいえないけど、友達も出来たし、楽しかった。

一日一日がはやく、気づくと、もうすぐ一年が経つ。

あたしが来て、10月ほど経った3月31日。あたしは近くの花園に花見をしに行った。そこには満開の桜があった。それに、此処では稀な、純白の蝶が辺りを飛びまわっていた。それも、数十匹一所に。
その年はいつもより何倍も寒いそうで、3月の終わりだというのに、雪がうっすらと積もっていた。まるで、いつまでも残るかのように。
花見も終わりに近づいた夕方、あたしは木の上の影を見つけた。それが今の日番谷くんというわけだ。

「どうしたの?」
あたしは子供好きだ。あたしも当時、まだ子供だったが。すぐに声をかけた。
返事がない。あたしは木に登って確かめようとした。
なぜか逃げようともしない。でも、怖がっていることは確実だった。
だって、いきなり膨大な霊圧が押し寄せてきたから。あたしは‘霊圧’という言葉をまだ知らなかったが、いきなりすごく寒くなったことを覚えている。そして、雪もいっきに積もった。

今思えば、あたしもかなり勇気があったと思う。
突然木を飛び降りた日番谷くんは腕を折ったらしい。泣き声が聞こえてきた。
あたしは勇敢にも木から飛び降りたのだ。しかも、無傷だったからすごいと思う。
手当てしようと思ったが、日番谷くんは走り出してしまった。
もちろん、あたしが追いついた。
追いついて、初めて身長の差を実感した。頭二つほどあった。
あたしの外見年齢が10歳なら、日番谷くんは5,6歳といったところだろう。それほど、差があった。
強引に日番谷くんを家に連れて行った。

その時のことを思い出すと、笑ってしまう。
笑ってしまった。

* * * * * *


あたしは我に返った。すぐに身を起こす。
「はっ、此処どこ?!」
「おい、記憶がなくなったのか?さっきまで寝言で笑ってたぞ。」
目の前には日番谷くんが「大丈夫か?」というように覗き込んでいた。
「うん、大丈夫だよ。」
さっきのは...夢?
今あたしがいるのは、十番隊の執務室のソファー。

「今日何日?」
「何日って、3月31日だ。」
「夢、か」
あたしは起きて、あたしよりちょっとしか小さくなった日番谷くんをみつめた。
「何とぼけてんだ。」
「とぼけてなんかないよ!あたしの記憶力を舐めないでよね。」

「雛森隊長!今日の夕方遊びに来てくださいね!お酒とか用意して...
 あたしは今日くらいは仕事をちゃんとやりますから。」
振り返ると乱菊さんが書類の山々と奮闘している。

「今日の松本、なんか変なんだよな。朝っぱらから仕事やるし。」
日番谷くんは首をかしげた。
「そうだね。」
あたしはなんとなく、理由を知っているような気がした。


(だって、今日は特別な日だから。)


「じゃあ、あたし戻ってるね!みんな心配してると思うから。
 あと乱菊さん、夕方には絶対にくるからね!」
外に出て、五番隊隊舎へと向かった。

満開の桜がきれいで、此処では稀な純白の蝶も飛んでいた。