Part 2

机に座り、真面目に課題を解きながら、今年は成績が落ちませんように、と願う。願ってから星に願うガラでもないということに気づく。そして再び白紙に目線を戻し、問題に取り掛かった。春らしい生ぬるい空気が通り過ぎ、窓へ振り返ると、ガラ空きだった。容赦なく風が吹き込む。むっくりと漆黒の物体、いや、朽木ルキアが屋根に足をかけ、逆さまで現れた。

「音も立てずに当たり前のように入ってくんな。というか、お前はコウモリか。」

「贅沢言うなたわけが。私はお前のために現世まで来てやったのだぞ、一護。」

ためらわずルキアは黒崎のベッドに座る。「俺がいつ贅沢を言った?」黒崎の疑問は空気かのように無視された。

「お前が仕事をサボっている間、私が空座町の担当とついでに黒崎一護の監視を任されたのだ。」

「サボりとか人聞き悪いこと言うな。それよりお前は何もなくとも家に居ついてるだろ。」

黒崎が疑わしそうに片眉を上げた。

「では、私は正門から堂々と入ってくることにする。」

凛をした声を残し、また窓からルキアが飛び降りた。

 

しばらくすると、玄関からルキアの猫を被った声が聞こえてきた。

「実は今度てすとというのがありまして、私、黒崎くんと勉強会を開くことにしたのです。」

眉を傾げる。そんな話し、あるわけがない。

「興味のあるお友達もつれてきたのですが、大丈夫でしょうか?」

玄関に三人、いや、四人ほど人が増えたのを感じ、それと同時に冷や汗が吹き出した。

「いえ、お父様がご認可なさらないのなら仕方がありませんわ。シク、シク

わざとらしい泣き声と共にハンカチで涙を拭いてるのだろう。それを夏梨が胡散臭そうに見つめ、遊子が涙を溜め、目を潤ませながら「開かせようよお父さん」と黒崎一心にしがみついてる。その一心は顔を綻ばせながら亡き母、真咲の遺影へと飛びつき、「真咲~!今日また息子が二人、娘が二人できました!」と報告する。これを目撃した五人は冷たい目でこの家族を見るのだ。目に見えるように想像できることによろこんでいいのかも分らない黒崎は項垂れた。

 

当然のように二階に上がり、部屋に入り込んだ人々を見た黒崎はゲッソリを疲れた顔をした。長らく問題を解いてたからではない。

バンと荒々しく開かれたドアから、

「よう一護。」

真赤の髪が蛍光灯に照らされ、眩しく輝く。

「うっす一護!」

波打つ蜂蜜色の髪。そしてその胸はどうやってそのきつい服に収まっているのですか。常々問うが、その答えを見出したためしはなく、恐らくこれからもないだろう。

「いい加減にしろ松本。」

「お邪魔しま~す、黒崎くん!」

「ということだ一護。」

「姉さん!織姫ちゃん!乱菊さん!その神の谷にはマスコットキャラをゴフッ!」

ということだ、じゃねぇェ!そう突っ込む気力もなく、黒崎は重い溜め息を吐いたのだ。

 

「冬獅郎、どういうことだよ、これ。」

一番話しの分かりそうな日番谷へ振り向き、黒崎はノコノコと部屋に入り込んできた乱菊、阿散井、織姫、そしてルキアを指した。

「日番谷隊長だ。俺に聞くな。」

腕を組んだままの日番谷はどこか疲れたようなふいんきを漂わせていた。

「俺に聞くなって、お前隊長だろ。井上以外のこいつらを束ねてるんだろ。」

「知るか!松本に黒崎が大変だとか言われて引っ張られてきたら普通に平和じゃねぇか。」

「でも現世ではテストの前ではいつでも大変なんでしょ、学生にとっては。霊術院と同じ現象じゃないですか、隊長。」

コンを踏みにじりながら乱菊はひょっこりと会話に参加する。

日番谷はあからさまに俺に振るな、と顔を背ける。

「で、何しにきやがった。俺の貴重な復習の邪魔か?」

目を細め、黒崎は嫌そうな表情を隠そうともしない。

「人聞き悪いわね、困ってる一護の応援しにきたんじゃない。」

「俺にはそんな応援団、いらね。」

あれだろう。要に乱菊は単にサボりたいだけだろう。黒崎は状況をはっきりと理解した。

多分最初に乱菊が現世に行くために日番谷に現世が大変だの、黒崎がヤバいだの、そんな情報を吹き込み、阿散井とルキアを引っ張り込み、成り行きで織姫もついてきた、と。なんで一角と弓親がいないのかというと、いや、居て欲しくはないけど、絶対文字の読み書きができるかも不明の剣八とやちるの代わりに業務をやってるのだろう。

はいはい、よ~く分かりました。

 

「あたしもちょうど復習してたからそうそう、黒崎くんに国語教えて貰おうって思ってて、」

織姫が鞄から教科書や参考書などを取り出す。信じてもらえることは少ないが、これでも国語が得意科目だったりする。本当に勉強する気があるのは、彼女だけだ。

 

ルキアはいつもの押入れの中で正座し、非常に真剣な顔をして鉛筆を走らせていると思ったら、自慢気に手に持ったスケッチブックで今さっき描いた自信作を阿散井と黒崎に見せる。下手の横好きが、そう言おうとする前に、既にそのスケッチブックの角が自分の頭に激突していた。黙れ、これは兄様にも認められた芸術的センスなのだ。傲慢に胸を張るルキアに、だからこそ大問題だろ、と心の中で言ってやった。口に出すと、今度は鉛筆か何かが飛んできそうだったからだ。

 

スケッチブックにやられた額を押さえながら、阿散井はベッドの末端に蹲っている。その横で乱菊がコンを圧し潰したり、引き伸ばしたりしている。毎度思うけど、これホントに生きてんの?ぐにぐにと綿の感触を確かめながら乱菊が聞いた。コン自身がそう思ってんだからそうなんじゃねぇのか?曖昧に黒崎が答える。

窓枠には日番谷が座っていた。その体格だからこそできる体勢悪く言えば、その低身長でできる芸当だ。その手には何故か大辞林の分厚い国語辞典。抱え込むような姿勢で、前書きから使い方までご丁寧に一行一行読んでいた。

 

「とにかく、井上は分かった。冬獅郎もまぁ国語辞典を読破するつもりみたいだし、よしとしよう。残りのお前ら三人。お願いだから他所でやってくれませんか?」

懇願するように掌を合わせる黒崎。日番谷がすかさず日番谷隊長だ、と決まり文句を入れるが、いつもの如く無視。

「え~、だってやることもないし行くとこもないじゃない。」

つまんな~い。肩を揺さぶりながら乱菊が訴えてくる。

「やることがないんだな。よし、速攻で溜めた書類を終わらせろ松本。」

「たいちょ~。せっかく一護の勉強に付き合ってあげてるのに、それはひどいんじゃないですかぁ?」

「俺は黒崎にやらせてんじゃねぇ、お前にやらせてんだ。」

つーかお前の勝手な行動に一々引っ張られてるのに、仕事さえ終わらせないとはそれこそひどいのではないか。

「だったらせめてここでやりたいです。」

そうすれば一護にも手伝ってもらえるし(強制的に)そう乱菊が企んでいることは日番谷も予想はしていたが、黒崎には悪いがそれもそれでいいのではないかと思い、あえて口には出さなかった。

「いいだろう。」

そして許可を下した。

「え?ちょ、冬獅郎?乱菊さん?なんで俺の部屋が執務室になってるわけ?なんで冬獅郎はそれを許可するの?そんな場所ないんですけど俺の部屋対して広くないから、狭いから

焦りを感じたのか、黒崎が幾分暁舌になる。

 

そして死神代行、黒崎一護の部屋が中間テストまでの当分の期間、勉強部屋、兼、十番隊執務室となった経緯は以上の通りである。

 

 

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