Part 1

「たいちょ~!知ってます?苺が死神代行一時休むらしいですよ!」

「知ってる。後字違う。何気なく果物に降下してるんじゃねぇ。」

目もくれずに日番谷は当たり前のように答える。無論、手に持った筆は速度を落とさず神的な速さで書類を捌いている。

「え?あたしの情報網より速く捉えるなんて、どういうことですか?」

また厨房から盗んできたであろう煎餅をバリバリと自己主張するように口いっぱいに頬張ってる乱菊は、執務中であるのに堂々とソファーに重く沈みこんでいた。

「そうか。」

……

「何でそのまま流して仕事続けるんですか~。そこは理由を教えてくれるとこでしょ!」

「ふーん。」

尚も顔を上げもせず、相槌を打ちながら、日番谷はただ目前の溜まった仕事、誰かさんの溜めた仕事に集中していた。

「たいちょ~、そこまで言われたら説明する気になりません?」

「ならないな。」

「知りたいです!教えてください!教えてください、教えてく

「こっちは取り込み中だってんのが分からねぇのか!」

机を叩く音と怒鳴り声が高らかと十番隊隊舎に響き渡った。

「大体今俺がやってるのは誰が溜めに溜めた仕事だと思ってる?」

「隊長の?」

「なわけあるか!」

あ、噴火したな、堪忍袋の緒が切れたな、と報告に入ろうと思った隊士は悟り、そそくさと退散したのである。

そして沈黙すること約五分。日番谷が再び仕事に集中できるようになり約五分。開けた窓から入ってくる春らしい暖かな風に誘われたのか、もっそりと冬眠から覚めたばかりの熊のように乱菊は上半身だけを起こし、ソファーの影から頭をひょっこりと出した。

「で、何で隊長があたしより早く知ってたんですか~?」

「説明必要ねぇくらい単純だろ。」

「いいえ、説明が必要です。」

面倒事がやってきた、とばかりに日番谷は深い、それは海峡も怖じるほどの深い溜め息をついた。

「馬鹿かお前は。」

「どーせバカですから。」

はぁ、と再び日番谷は溜め息をつく。

「地獄蝶。」

え、そんなにも単純だったんですか?冷や汗をかきながら乱菊は思った。ただこんなにも簡単な可能性を自分は考え付かなかったのか、と。

「説明終了だ。お前もいい加減、自分の仕事くらいやれ。」

「いやです。どうせもうすぐで定時だし。」

「まーつーもーとー!」

「いやで~す!じゃ、あたしは読者さんに状況を説明するんで!」

「いい加減にしろ松本!」

木霊する阻止の声も効くわけがなく、ただ虚しく開かれた執務室の扉に吸い込まれた。

 

「というわけで、今の状況をあたしが紹介しちゃいます!」

いえいえ、そこはナレーションがするので、筆者がするので。

「つまり、一護が総隊長の所に自ら行って、中間試験のために復習期間だけは休ませてくれないか、って申し出たわけ。」

乱菊さん?そんなに簡潔まとめると字数が足りなくなるんですけど乱菊さん?

 

つまり、細かいところまで説明すると、こういうことだ。

 

「黒崎一護、今日は報告日でもない。何故ここに来た?」

さすが総隊長と言えど、老人ボケも進み、好々爺の面も表れつつある山本元柳斎隊長。

「いやあの、突然で申し訳ないっすけど、その、死神代行兼業し始めてから色々と俺も巻き込まれてきたじゃないですか?戦いとか、戦いとか、戦いとかに。それで学業の方が疎かになってきていて、成績が直線で下がってるんですよ、はい。」

微妙な敬語を使い、黒崎は話しを進める。

「何が言いたい。」

杖を膝に乗せ、角ばった指で回しながら総隊長は姿勢を正した。

「つまりですね、今度中間テストでしてえ?中間試験を知らない?一言で言うと試験ですよ試験。学期の間で緩んだ学生の根性を叩き直すっていうようなテスト?そんな物です。」

丁重に中間テストの説明をする黒崎。

「今度中間試験でして、高二になって初めての重要な試験じゃないですか?単刀直入に言うと、その試験のための復習期間だけでもいいので死神代行、一時休ませて欲しいです。」

「ほぉ。そうか。そうじゃのう、例え死神代行でも本業は学生だからのう。さて、どうしようかのう

思いにふけながら、総隊長が目をつぶった。

微妙に長い静けさ。ただ鳥のさえずりが場の和やかさを証明する。

耐えられなくなった黒崎は、

「考えてるのか?総隊長、真面目に考えてますか?眠ってるの間違いじゃなくて?」

冷水をかけられたように総隊長の身体が跳ね上がった。

「そうじゃのう。では空座町にもう一人死神を派遣することにする。だが休業は認めぬ。見つけ次第、やはりいつもと同じく処理するように。まぁ、お主の性格じゃ。見過ごすことをできる性ではなかろう。」

ふと目を細め、表情が少々柔らかくなった。

 

ということで、死神代行の仕事の一時緩和が認められたのだ。

 

 

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