ここで、合格すれば、
あたしは正式な死神になる。
六年前のわずかな灯は、
成長して、大きくなって、
燃え広がる。
あたしの希望のように、夢のように。
きらきらと、眩しく、
でもきれいに、たくましく、
光る。

とうとう試験日がやってきた。ちゃんと休息をしないと翌日疲れるということは知っているのに。あたしは眠れない。真っ暗は部屋を見渡した。何も見えない。何も見えないけど、あたしはもうすぐこの部屋を離れることを名残惜しく思えた。そして、あたしはすごい成長したことを実感する。

そして何年ぶりか、家族に会いたくなった。
あたしが生きていたら、もう大学二年生だ。
生きていれば、夢の医者になれたのかな。
ここでは、もう不可能となったことも体験できるだろう。
そして、あたしの顔立ちも変わるだろう。
此処では成長が遅い。
あたしは、六年間で、二センチ伸びた。
でも、おそらくもう伸びないだろう。
いつか、現世に行く機会があったら…などと想像する。
でも、本当に行くことになったら、あたしは家族の様子を見に行こう。
相手はあたしが見えないかもしれない。
だも、あたしはそれだけで、安心するから。
あたしは真夜中に決めた密かな決心。

考えているうちに睡魔があたしを襲った。
安らかに寝息をたてるあたしの頬には、一筋の涙が、流れ落ちた。

次の日は朝の五時に目が覚めてしまった。
仕方ないから起きた。
外に出て、まだ冷たい春先の風が顔をくすぐる。
冷たいのに、安心感に包まれるみたいで、気持ちがよかった。


あたし達は緊張して、座って順番がくるのを待っていた。
名前順に呼ばれる。
試験内容は、始解をすることと、的を鬼道で当てること。それから、瞬歩で100メートル。
一見簡単だが、その中での採点が厳しい。
内容が少ないからこそ、自分の能力を発揮できる場も少ない。

あたしの頭は真っ白だった。
でもその時あたしが握っている如月はあたしを慰めているようだった。
あたしは如月を一層強く握り締め、そして背中に背負った。
あたしは右利きなのに、如月は左肩からかける。手を前から、首を守るように如月を抜く。

「襟沢幸。中へ。」
幸が呼ばれた。
部屋に入った。
ここからは、かすかに幸が始解をする声が聞こえる。
そして、爆発音だ。
幸が鬼道を打った。

「及川大輔」
「木村明乃」
「栗木怜」
…………
「鳥山ほのか」
「梨本美恵」
「野宮賢」
入って行き、出てくる。
なんともつまらないルーティン。
でも、あたし達にとっては人生に関わること。
就職面談のようなもの。
次はあたし。
「林芳音」
あたしは緊張を抑え、胸をはって入った。本当は、心臓が飛び出しそうなほどなのに。
目の前にはずらりと審判の人達が座ってた。隊長も二人いた。卯ノ花隊長と、浮竹隊長だ。
二人ともやさしい、やさしいけど誰よりも厳しい。
「では、先に始解を。そして技を一通り見せること。」
「はい。」

「夕鳥で目覚めろ、如月」
体感温度が一気に下がる。
「一曲、霜花」
「二曲、名残雪」
「三曲、飛鳥」

「きみの斬魄刀は幻術系と書いてあるが。」
浮竹隊長が口を開いた。
「はい。砕けた氷で、相手を包んで、記憶を探り、指定した記憶を見せることが出来ます。」
「興味深いですね。出来れば、見てみたいものですが。」
「あの、よろしければ、やることができますが…」
「じゃあ、ぼくがやるよ。」
「了解です。」
あたしは浮竹隊長の前で構えた。
包み込み、探る。
知らなかった。
いつもは明るいのに、悲しいことを続けて経験した、浮竹隊長。
海燕の死。朽木ルキアの処刑を止める時。反逆。アランカルに貫かれる。斬魄刀にからかわれる(?)
その中で一番面白かった、それよりはできるだけ悲しいことを思い出させない、双魚ノ理にあそばれるシーンを選んだ。
それを再現した。

「どうですか。」

浮竹隊長が微笑んだ。
「僕が双魚ノ理に遊ばされる時だね。」
「はい。」
その笑顔で、あたしはなんか元気になった。
「続いて、鬼道で、的に命中させてください。」
あたしが構えた。
「雷吼砲!」
よかった。見事命中。
昔から、本番になるとドジるあたしの今日の運はいい。
肩を下ろした。

「最後に、瞬歩。」
瞬歩はあたしの得意分野。
全神経集中させ、いっきに消える。
好成績の二秒。





後日、結果が公表された。
あたしは、生きていたとき、中学受験の結果発表の時のように心を躍った。
表に目を配らせ、あたしの名前を探す。

林芳音…十番隊 末席

「席官!」
思わず声に出た。
調子はよかったけど、席官なんて思ってもしなかった。
「ええ!林さん席官入りしたの?」
「末席だけどね。」
わざと冷静に振舞った。
「末席でも十分にすごいから。わたしは平隊士よ。でも、憧れの十三番隊。」
めずらしく、幸が、目をうるうるさせていた。
「やっぱ芳音すげえな。俺も平隊士だぞ。九番隊の」
「でも黎明は将来席官になれる可能性、100%に近いよ。」
「そう言う襟沢だってそうじゃないか。」
穏やかな会話が続いた。みんなの道が開けてきた。
「護廷に入っても友達でいようね。」
「もちろん。」
「当ったり前じゃねえか。」
あたし達の手が自然に重なった。

* * *

「死神になれたよ。」
あたしは如月に報告した。
「おめでとう。これからはもっとがんばってね。」
「うん!」
如月はいつ見てもきれいだ。
いつでもあたしに限りない勇気と希望を与えてくれた。
あたしは刀身に戻った如月を握り締めた。
如月の鞘が月の光を反射した。

道が開けてきた。
確実になった。
でもあたし達の人生は、
始まったばかり。

 

 

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