受かった。
そんななんとも言えない充実感があたしを満たした。
あたしは自分の精神世界に入った。
最初は恐れていたあたしの世界。
空に海。
今は、きれいだと思った。

四月初め。
霊術院の入学式の時のように満開の桜。

あたしは朝早く起きて、真新しい黒に死覇装を見つめ、抱きしめた。
改めて、実感した。
その、真新しい死覇装に、あたしは初めて、袖を通した。

九時。
十番隊で入隊式が行われた。
初めて見た己の隊長への第一印象は、
(子供じゃん!)
日番谷隊長はあたしと30センチほどの差があった。
もちろん、それを口にしてはならない。チビな人ほど、チビだと言われるのが嫌いだ。現に、現世にいた時、あたしは、そういうミスをしてしまったことがある。
人間(魂魄も含めて)、真実を指摘されるとむきになりがちなのだ。

「では自己紹介してくれ。」
その声は、見た目とは似つかないような、声だった。
なんか、隊長としての威厳、ていうか、責任感を持っている、そんな声だった。
あたしは、この人なら、信頼できると実感した。
「はあ~い!ここに来て、一列にならんでね!」
松本副隊長がひどく大声で…いやいや、元気に言った。
その声であたしは我に帰った。

「はい、先平隊士から。」
あたしの前にいる、4人の人達が前に出た。
確か、町田啓人と、宮崎研と、小木詩帆と朱城元章(あかぎもとあき)という人達だ。
あたしは、みんなの名前を覚えることを目標とした。

「じゃあ、残りの一人。」
「はい。」
あたしは一歩進む。深呼吸をした。
昔、音楽の先生が、自己紹介をする時は、深呼吸をすると、緊張感が薄れて、声が通りやすくなる、ということを覚えていた。
「こんにちは。林芳音です。今度、十番隊末席になりました。よろしくお願いします。」
使い慣れない敬語を使っていると、何度も、言い間違えそうになった。

その後、あたしは席官用の執務室に通された。
(もちろん、その前に、荷物を置きに、部屋に案内されたが。(二人部屋))
執務室は、教室と同じくらいの大きさで、中に、十五個ほどの机が並べられ、隊員達は、まじめに書類と向き合ってた。
成程、うわさ通り、十番隊は、護廷一仕事をまじめにする隊だと感心した。
あたしも、みんなみたいに、黙々と、書類をこなした。

* * *

定刻後、あたしはとある居酒屋へ、幸と、黎明に会いに行った。
みんなで約束したのだ。
正式な入隊初日の実感を、発表し合う。

「お待たせ!」
幸はもう来ていた。印象的な、スカイブルーの瞳が、あたしを迎えてくれた。見てると、一日の疲れが吹っ飛ぶような、そんなオーラを幸は発する。
「林さん、どうだった?十番隊。」
「う~ん、なんかね、すっごいけじめのある人達がいる隊。まあ、副隊長は除外。もちろん、まじめな時もあるとは思うけどね。幸はどうだった?」
「十三番隊は本当に、和やかなのよ。みんなが、迎えてくれて、反対にこっちが恥ずかしくなっちゃうくらい。隊長は一日中にこにこしてたし。」
「九番隊も結構平和だよ。違う意味での。」
「って黎明!いきなり何だよ!」
いきなりひょっこりと頭を出した黎明にあたしは素直に驚いた。
「木俣くん、こういう時は霊圧消さないでほしいわ。」
「ごもっとも」
「ごめんごめん。なんか妙に驚かしたくなってね。そこにちょうどいるの見つけたし。」
「まあ、揃ったから、中に入ろう。」

あたしと黎明は人生初のお酒を味わった。
なんかよく分からない、説明のしようがない味だった。
でも、まずくはなかった。

それぞれが、今日一日、体験したことを話した。

十三番隊は、浮竹隊長が病弱で、虎徹三席と、小椿三席が、お互いに敬愛する隊長の力になろうとするのだが、いつも言い争いになってること。それが、十三番隊での日常となっているらしい。みんな仲がよくて、それに、所々、浮竹隊長自らが整えた盆栽が飾ってあるらしい。

十番隊は、さっきの説明に付け加えて、隊士みんな、家族みたいで、すごく安心できること。松本副隊長はいつもお酒を飲んでさぼるらしいということ。それで隊長が怒声をあげて、霊圧を放出し、体感温度が下がる。あの二人はすごい組み合わせだと思う。あたしも今日、四回ほど、隊長が声を荒げたの聞いた。

九番隊は、隊長不在のなか、檜佐木副隊長が隊を仕切っているそうだ。あと、通信も出しているらしい。そして、黎明は、定刻直後に、檜佐木副隊長がギターを弾いているのを目撃した。黎明曰く、耳が腐りそう。(これ、秘密だよ。)

あたし達みんな、いい隊にはいれたと思う。
なんか未来が見えてくるような、
そんな実力をつけれる隊に入った。
この三人、意外と幸せ者だ。
過去ではなく、今は。

お互いの話で盛り上がっているなか、突然叫び声が聞こえた。なんか聞いたことがあるような。
「吉良~、もっと飲もうよ~」
「いいえ乱菊さんー。もう吐きそうです。
 ウッ、ゲボっ」
「ちょ、ここで吐くな吉良。」
「じゃあ、恋次~、あたしと飲もう~」
「いや、俺も遠慮しときます。」
「もう。あたし外行って探してくるわ」
そして、ごそごそと、何かが這い出る音がしたのだ。

防御本能だろうか。あたし達三人の背には冷や汗がつたった。テーブルに突っ伏した。

何かを思った時、その思いはものを引き寄せる。
見事に悪運は訪れた。

「ああ!林じゃないの!」
「はい!」
反射的に、背を伸ばす。
「一緒にお酒飲もうよ~ 後、そこの人達も」
幸と黎明をさしたのだ。

あたし達の顔が引きつった。

「いえ、遠慮し…「来なさい。」」
「…はい」

その夜の記憶はあいまいだ。
でも、ちゃんと隊舎までは、たどり着けた。

その後、松本副隊長は日番谷隊長の怒号を思いっきり浴びさせられたとか。

部屋に戻ったら、同室の平塚和世さんはまだ起きてた。
「どっどうしたの?」
「松本副隊長のお酒に付き合わされた。」
途端に平塚さんの顔が青くなった。誰でも、副隊長との恐怖の思い出があるらしい。
「はあ~」
あたしと平塚さんは、いっしょに盛大なため息をついた。
「じゃあ、今夜はちゃんと休んでね、林さん。」
「はい。」

始まった。
あたしの死神としての日々が。
思ったより楽しい、
新しい日々が。

 

 

前へ  次へ