体感温度が下がって、
なぜか昔のことを思い出して、
懐かしかった。
ほんの少しの間だったのに、
もう何十年も経ったような感じがした。

つかの間の懐かしさを後にして、あたしはあたしの<精神世界>というところに来た。
広い海。巨大な空。
あたしはその軸として、真ん中に立っている。

「こんにちは、芳音さん。始解するまでにずいぶんと早かったね。」
いきなり、目の前にある少女が舞い降りる。

藍色の髪はさらさらで、指通りよさそうだな、と勝手な妄想をふくらませる。
雪のように透き通る白い肌。見てるとうらやましくなってくるような、そんな感じだった。
うすい黄色の唐の時代の中国の着物のようなの着て、所々、オレンジや、紫の鳳凰を思わせる鳥が、刺繍していた。
目は黒だが、時折紫っぽく光り、如月の鍔みたいだった。
見た目は優雅だが、どこか、芯の強い、そして元気なふいんきを編み出していた。

「もしかして、如月?」
「そう。さっそくだけど、うちの能力教えるね。普通の斬魄刀とは違うのよね。だから、有効に生かしてね。」

斬魄刀の種類などきいてなかったから、特別かどうか分からなかった。
でも、如月は、人を傷つけるだけではないと分かった。

如月は氷雪系としても攻撃できる。
広範囲に使えるが、決して、強度は高くない。
そこを狙うのだった。
氷は砕ける。その砕けた氷が、標的を包み込み、その人の記憶を探ることが出来るのだ。
そして、その記憶を駆使することが出来る。
困惑することもできるし、相手の弱点も探せる。
反対に、慰めることも出来る。

いわゆる幻術系だ。
なんか誇らしかった。
自分でもどうしてか分からないのに、
誇らしかった。
あたしは如月を使って、人を助けられるのだ。

「幻術系か。だったらなんで氷雪系と重なるの?」
「うちもよく分からない。二回とも、冬に生まれて、究極的に暑いのが苦手だったからかも。」

確かに一理ある。
でも、生まれる、と言う言葉が引っかかった。
現世で死んでも、此処では生まれる、ていうこと?
妙に嬉しかった。
此処に来てから初めて味わった感覚だ。

「そこで、きみに頼みがあるの。」
如月が口火を切った。
「死神に、なって。」
「へ?」
「一生流魂街で過ごしたくなかったら、死神になるしかないよ。死神になれば、きみの能力も認められる。きみの力、つまりうちは稀だよ。もっと力さえつければ、隊長格だって夢ではない。それに、だよ。きみも、もっと多くの人を助けられるよ。」
あたしを動かした、それか決意させたのはその言葉だった。
「死神になるよ。がんばって、なるから。これからもよろしくね、如月。」
「こちらこそ。」

厳しいのは分かってる。
難しいのも分かってる。
でも、如月となら、
なんでも克服できそうだ。
船の帆のようだ。
それほど大切なもの。
それが如月。
あたしの世界に小さな、
でも生命力旺盛な灯ができた。
あたしは死神になってみせる。
夕方だ。今日の最後の太陽と、最初の月の光の反射をうけた如月の刀身は、あたしの希望みたいに、朝よりもずっと、強く、きれいに光った。

 

 

前へ  次へ