01

「おい聞いたか?」

聞いてない...

「なら今聞け。ファントムが生き返ったらしいぜ。」

「俺も聞いたぜ。何せオーブが作動したんだとよ。」

「でもゾンビ・タトゥーは消えた、て俺は聞いたぞ。」

「おいおい、いいのかこれで。また戦争が始まりそうだぜ。」

「平和になって二年も経ってねぇじゃねぇか。すぐにまた第三次メルヘヴン大戦かよ。

 

夕暮れ。濃い霧がメルヘヴン全体を包み込んだ。もはや夕日など見えない状態であり、遥か彼方に紅色の輪郭がぼんやりとかすかに見えるほどだった。そこに確実にあるのは、闇だけ。

騒がしいバーから彼はすっと立ち上がった。代金を弾くように飛ばし、外へ出て行く。後ろでついてくる小さな妖精が場のふいんきを和ます。

彼らは丘へやってきた。かつて、共に戦った仲間が元の、自分の在るべき世界へ戻ったところだ。

 

「アル、最近の噂って本当だと思う?」

妖精の心配そうな声が沈黙の空間を引き裂いた。

「あぁ。残念ながら本当のようだ。もういくつもの町が焼けたと聞いている。

淡々と、何事もなかったように彼は言う。しかしそこに何とも言えぬ、底から湧き上がってくる憎しみとも、怒りとも取れる感情が滲み出ていた。

「せっかく二年前に完全に封印したと思ったのに。あの苦労もすっかり水の泡じゃない!」
「水の泡ではない。少なくとも二年間は平和が訪れた。それは事実だ。問題はこれからの対策だ。」
「どうするの?やっぱりあれ?」
「門番ピエロをもう一回使おうを思う。」

「今?」
「いや。みんなを集めよう。噂が立ってからずっと考えてた。もうこれ以上発展したら...だからもう一度団結して、そしてこれを使うことにした。

アルヴィスはポケットを探った。ジャリジャリと、色んなARMが打ち合う音がする。しばらくしてから、ディメンションARM、門番ピエロを出した。
二年前、そして八年前にも使われたこのARMは光が褪せることなく、薄暗い闇で輝いた。

 

「どうする?先にジャック探す?一番やりやすそうだし。」
「そうだな。ドロシーはギン太がくれば寄ってきそうだし、ナナシはそのうち、いや、ドロシーがいれば必ず来そうだ。あとはバッボのところに行くだけだ。」
「じゃ、早速しゅっぱぁつ!」

 

ジャックはそれから故郷に戻り、何故だか分からないが、元敵のパノと元気に畑を耕して暮らしていた。パヅリカは変わらぬ田園風景で二人の旅人を迎えた。
「久しぶりだな。あぁ、噂はこっちにも広がってる。俺も近頃島を出てみようと思っているところだ。もちろん、パノは置いていく。誤解されるのはごめんだ。

そばで嫌がっているパノは放っておいて...

「お前にしてはよく考えたな。」

「あぁ、ってえ!?」

思わず腕を組んで頷きそうになったジャックは大きく目を見張らき、ずっこけた。
「とにかく、来るか?」
「もっちろんだ!」

 

三人に増えた一行はレスターヴァへ向かった。暗がりの中、それぞれの影は更に濃い闇を映す。
燃えるような夕焼けを背景に、あの丘で、アルヴィスはまた門番ピエロを取り出した。
他の二人が固唾を呑む中、門番ピエロを解放した。

「ディメンションARM、門番ピエロ。」

不気味な、藁人形にも思える鎖に繋がれたピエロがギィーと扉を軋らせた。

 

「サイコロは、5。」

 

* * *

 

「ほんと久しぶりだね。いっしょに休暇がとれるなんて。」
「そだな。」
「おばあちゃん元気かな。」
「子供集めて遊ばせてるらしいぜ。」
「そうなの?知らなかったぁ。一緒に遊びたいな。

 

瀞霊邸の白道門を出て、実家へと、二人は悠々と歩いていた。
藍染後、雛森の職場復帰も果たした。今は解決後処理に追われた日々も一段落が着き、何年ぶりかも分からないほど久々に、二人一緒に帰郷することになった。

 

「ねぇシロちゃん。」

日番谷が嫌うと知りながらも、無意識にそのあだ名が零れてしまう。

「何回言えば…」

それに日番谷は過剰に反応し、いつもの言葉を返そうとしたが、雛森が怪訝そうに野原であるはずの場所を指したのを見て、動きを止めた。

「何あれ?」

 

目の前に大きな門が聳え立ち、怪しげなピエロがいる。思わず己の斬魄刀に手をかける。

「サイコロは5だ。先に二人、入ってこい。

「何者だ。」

新種の虚か。警戒を払い、日番谷はゆっくりと氷輪丸を鞘から引いた。銀色の光芒が溢れ出す。

ピエロに動きはない。

「入れ。」

ただ無機質にそう言い、拒否する間もなく、日番谷と雛森はドアに吸い込まれた。

 

* * *

 

「たっだいまぁ!って何でハッピーがいるの?」
はち切れそう。なほどの力で、ルーシィがドアを開け放つ。

 

「アイ!ルーシィ、大変だ!ナツとグレイが変な扉に吸い込まれた!」
「え?その前に何でいつも勝手に入り込んでるのよ!侵入罪!」
「その場合じゃない!」
「で、その扉はどこ?助けに行かないと。」
「消えた。
「どうしろって言うのよ!」

 

* * *

 

あのギン太もただいま高1。腐れ縁か何なのか、小雪とは同じ学校で同じクラスである。居眠りの癖は…
直る兆しがない。
そんな授業中にまた現れた。

「ん?門番ピエロ?メルヘヴンに何かあったのか?」
「残りは一人だ。来い。」

「ギン太。」
「大丈夫だ。行ってくるよ。逆門番ピエロがあるからな。

 

* * *

 

見渡せはあたり一面、何処までも連なる草原。近くには森。そして丘に崖。
建物がびっしりと所狭しと建っている瀞霊邸、治安が悪く、土地が荒れた流魂街とは違っていた。

「日番谷くん?日番谷くんってば!」
「ん?雛森か。」

冬眠から覚めたかのようにゆっくりと辺りを見渡した。

「何処だ?」

見知らぬ場所にいきなり放り込まれ、危険を察したのか、日番谷は手元に斬魄刀があるのを確認し、一息をついた。

「分かんないけど、ソウル・ソサエティーじゃない。それにあそこにも人が倒れてるよ。」

雛森が指さした場所には日番谷の髪と同じく目立つが、また違う、ピンク色の髪をした人が目を爛々と光らせ、周囲を見渡していた。

 

「どこだ此処?」

好奇心をむき出しにしているナツは自分の下敷きになっている人に気づく兆しがなかった。

「ナツ。俺の上に乗っかるな。蒸し暑い。」
「あれハッピーは?お~い!ハッピー!」
「聞いてんのかこらぁ!」

そしてまた少し離れた草むらでは...

「おぉ!本当にメルヘヴンだ!アルヴィス!」
「久しぶりだな。でも何だ、あそこの人達。」

アルヴィスは死神と魔導師が倒れているところを指す。何故だかまだ転がっている。

「知らないけど、俺の世界からじゃないぞ。」

「何か問題があったか。」

確認するかのようにアルヴィスが門番ピエロのARMを擦る。

仕方が無いので説明をし、彼らはフムフムと頷いた。
「つまりこの世界を助け、その後バッボとやらに逆門番ピエロを開いてもらわないと帰れないわけだな。」
「面白そうじゃん!乗ったぁ!」
「ちょっと待て。」

日番谷が話しを止める。

「時間がかかるか?それは。」

「そうだな。前に俺の時は...何か月かは掛かってたな。今回は多分短くなるかもしれないけど。だってお前ら、もうARM持ってんじゃん。」

そしてジャックが顎で示した先にあるのは斬魄刀だった。

ARM?知らないが、これは違う。

ともかくだ。少なくとも一月はここにいないと元の世界に戻れないらしいが、時間の流れは同じか?」

「いや?同じだけど...

「帰るぞ雛森。」

それを聞くなり日番谷は踵を返した。休暇は辛うじて三日しかない。しかも本当い三日休んでしまえば、戻ったら書類が執務室から溢れ出してる、なんてことも松本ならやりかねない。

「ちょっと日番谷くん!どう帰ろうとしてるの?」

「穿界門で。」

「門番ピエロ以外で帰ろうなんて、無理よ。」

上から誰かの声がする。甲高い、女性の声が。

 

「ギン太ん!」

箒に乗ってる魔女こと、ドロシー。

「何で分かったの?」
「ギン太んがきそうな気配だったの。」
「ドロシー姉さん!久しぶり!」
「あ、ジャック。アルヴィスとベル久しぶりね。」

 

「とにかくあんた達。なんかの門か何か知らないけど、無理。」

ドロシーが諭す傍らで、時を狙ったかのように日番谷の伝令神機が鳴りだした。

「松本か。どうやら伝令神機は使えるようだな。」

「ちょっと隊長!今隊長のお婆ちゃん家にいますか?霊圧消えてるんですけど、今どこですか?あと雛森のも。」

あまりの音量に思わず日番谷は伝令神機を耳から遠ざける。

「説明は後でする。とりあえず総隊長に休暇引き延ばすって伝えてくれ。雛森の分もだ。あと穿界門の準備をしろ。不本意だがに頼め。

「隊長雛森となにやってるんですか?もしかして...

「だからお前は変な方へと想像するな!」

「でも隊長ソウル・ソサエティーから離れたらただの子供ですもん。あたし心配で心配で...

「誰が子供だ!」

強制的に通話を終了させる。

「もうシロちゃんったら。まだ子供呼ばわりされて逆上するの?」

困ったような、諦めたような、そんな笑顔で雛森が笑った。

「シロちゃん言うな。」

手を振り払い、顔を背けた。

 

「早く終わらせろよ。」

「それはお前ら次第だな。シロちゃん。」

「ギン太と言ったか?お前は俺の刀の錆びになりてぇのか?!」

「ま、それはお前らにも言えることじゃねぇの?そういえば青い猫見なかったか?ハッピーって名前なんだけどさ。」

「だからそいつは此処にいねぇんだよ!」

 

レスターヴァでスノウを探しに行くことにした。
道を進む影は、九つとなった。
九つの影は、自然溢れるこの世界、メルヘヴンの地を夕日に背向け、歩いていった。